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P.ブリューゲルを模写する人(ウィーン美術史美術館で)
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ウィーンの美術史美術館で、P.ブリューゲルの傑作『牛群れの帰り』を模写している婦人の話を聞き、本物と模写の不思議な関係を
再考した。ここで模写することが許されている人は限られている。依頼されて模写する場合もあるが、自分の好きな作品を模写する事が多いという。
まず驚いたのは、模写にかかる時間の長さだった。本物を描いた時間より、模写する時間のほうが長いことも多いのではないかと言う。私が3時間以上後にまたここに来た時、この婦人は、先ほどと同じ線をまだ書き直していた。オリジナルの力に圧倒されながら、それを模倣することは、とてつもない辛抱強さが要求されるのだ。完成することのない動作を続けなければならないからだ。創作よりも模倣の方が楽だとは、到底言えない、とも思った。婦人はその覚悟を私に語ってくれたような気がする。描いている婦人の横顔は真剣で美しかった。オリジナルの持つ力強さと気品が乗り移っているようでもあった。
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